Honda Technology News

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INTERVIEW

Hondaは変わる。
変わらない志のために。

AIを始め、Hondaの新価値領域を担う研究開発組織「R&DセンターX」。
そのアドバイザーであるスタンフォード大学名誉教授のエドワード・ファイゲンバウム博士、
株式会社経営共創基盤の代表取締役CEO・冨山和彦氏、そして本田技術研究所の代表取締役社長・松本宜之が
一堂に会しました。三者が語る、Hondaがめざす未来、エンジニアにとっての魅力、求められる人材像とは。

松本 宣之
本田技術研究所 代表取締役社長
※インタビュー内容は取材当時のものです。

早稲田大学理工学部卒業後、1981年に本田技研工業入社。エンジニアとして、3代目「シビック」、4代目「アコード」、2代目「インテグラ」などの車種開発に携わったのち、空前のヒットを記録した初代「フィット」の開発責任者(LPL:ラージプロジェクトリーダー)を務める。様々な事業責任者や、Asian Honda Motor Co.,Ltd.副社長、Honda Motor India Pvt. Ltd.社長を経て、2016年4月より現職。

エドワード・ファイゲンバウム氏
Honda R&DセンターX アドバイザー
※インタビュー内容は取材当時のものです。

カーネギー工科大学にてコンピューターサイエンスを専攻し、1956年に学士号、1960年に博士号を取得。人工知能分野で活躍し「エキスパートシステムの父」と呼ばれる。1994年チューリング賞を受賞。2007年にはACMのフェロー、2011年IEEE Intelligent Systems の人工知能の殿堂に選出。スタンフォード大学の知識システム研究所を設立し、現在はスタンフォード大学の名誉教授を務める。

冨山 和彦氏
Honda R&DセンターX アドバイザー
※インタビュー内容は取材当時のものです。

経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、コーポレートディレクション代表取締役を経て、産業再生機構COOに就任。数多くの企業再建に携わりIGPIを設立。経産省主導のIoT推進ラボ座長、国交省主導のi-Construction推進コンソーシアム委員など、その他数多くの組織においてブレーンを務める。

ハードウェアで世界一から、
ソフトウェアでも世界一へ。

松本:
Hondaには、創業以来ずっと変わらない志があります。すべての人に「生活の可能性が拡がる喜び」を提供する。しかもそれを若い人にとにかく自由に、チャレンジングにやらせるというのが我々の企業文化です。ところがグローバルに拡大して垂直統合型のビジネスを行ううちに、ついついオペレーティブになっている現実もあった。そんな現実に対するカウンターのひとつが、この「HondaイノベーションラボTokyo」や「R&DセンターX」です。お二人にもアドバイザリーに入っていただき、とにかく自由にチャレンジングにやって、イノベーションを起こそうと。もうひとつの文脈として、ハードウェアからソフトウェアへの転換があります。AIを始めとする技術進歩で、新たな価値を色々つくれるようになってきた。Hondaというと、エンジンに代表されるメカニカル領域を主軸に発展してきましたから、ハードウェアのイメージが強いんじゃないかと思います。これからはこれまでの強みであるハードウェアに加え、ソフトウェアにもより一層力を入れて両輪で戦っていきたいという強い想いがあります。
ファイゲンバウム氏:
過去においてHondaは、非常にイノベ―ティブな製品で世界に名を残してきましたね。1972年に発表されたCVCCエンジンはとても素晴らしいハードウェアでしたし、1981年に登場したホンダ・エレクトロ・ジャイロケータは歴史的に優れた発明としてIEEEマイルストーンを受賞しました。いま、この素晴らしいハードウェアの企業が、世界で一番のソフトウェアの企業に転換するということを目指しているわけです。その一助となれるとしたら、私自身とても嬉しいことです。過去と同様に世界を驚かせるイノベ―ティブな発明が、ソフトウェアのフィールドでも起こせると信じています。
冨山氏:
ファイゲンバウム博士もおっしゃる通り、Hondaはずっとハードウェアの頂点にいた会社ですが、その礎となったのはアントレプレナーシップですよね。ですから、この次のパラダイムでも、ものすごく新しい価値を生み出すポテンシャルがあると私も考えています。これから世界は大きな変化に直面する。日本が先行していますが、おそらくほとんどの人が100歳まで生き、マジョリティが後期高齢者という時代がくる。人類史上空前と言える出来事が、アメリカやヨーロッパ、さらに中国の巨大な人口でも起ころうとしているのです。そうなれば、人間と機械のコラボレーションが求められるのは必然です。この期待に応えるには、ハードだけソフトだけではダメ。ハードとソフトが高い次元で融合した時にとんでもない産業インパクトが起こる。社会から大きなイノベーションが期待されることは間違いなく、その中でHondaがいろんなことに挑むチャンスが生まれるはずです。

扉を大きく開いて、
本気のイノベーションへ。

松本:
もうひとつこれまでと大きく違う点があります。オープンイノベーションを推進していく点です。ロボティクスや、AIなどの新領域において、これまで以上に外部の知恵をどんどん取り入れて新しいHondaへと生まれ変わっていきたい。かつてHondaは「独身主義」といわれてきました。過去において、独自の技術や研究開発から、独創や自前という印象が根付いてしまっているようですが、実際は様々なメーカーさんとの共同研究の実績もあります。AIをいよいよ実装できる時代になったいま、生活への新たな価値をすばやく生み出すためにより明確にオープンイノベーションへと舵を切ったんです。2017年1月のCES(Consumer Electronics Show)で「我々は独身主義ではない」という話をしたところ、実に大きな反響がありました。「じゃあ、ちょっとお付き合いしませんか」というコンタクトが800件以上もあり、すでにチャレンジングなプロジェクトがいろいろと立ち上がっています。
ファイゲンバウム氏:
ただのイノベーションではなく、オープンなイノベーションを求めるのは素晴らしいことです。オープンネスから得られるものは、与えるものよりもずっと多い。また、より速くイノベーションを起こしたいともおっしゃっていますね。すべては世の中の動きと重なっています。変化はより速くなっており、かつては30年かけて起こっていたことが今では10年で起こる。この時代に居合わせたことは幸運で、新しいことを始める最大のチャンスと言えます。Hondaを起点に、世界を変える大きなイノベーションが生まれることに期待しています。
冨山氏:
さまざまな機関が組織という枠を超えて連携し、化学反応を起こしていく。それが研究の世界ではもちろん、ベンチャービジネスの世界でも起きている。組織同士の連携だけでなく、個人もそうです。今もっとも重要なのは、きわめてオープンで、フレキシブルで、ものすごく失敗に寛容で、変化に対する強いアスピレーションを誰もが持っているHondaというフィールドがあるということを、世界に強くアピールしていくことだと思います。その素晴らしさをきちんと伝えることができれば、世界中の才能ある個人が集まってくるはずです。松本さんが、Hondaは生まれ変わろうとしているとおっしゃいましたが、Hondaのイノベーションに対する本気度が伝わって、今まで接点のなかった色んな人が集まってきて新しいものが生まれる。そんなムーブメントを起こせたら素敵ですね。

成功するために、
失敗をふやそう。

ファイゲンバウム氏:
Hondaのよさは、ヒエラルキーがなくフラットで柔軟であること。そして、イノベーションの文化や精神が根付いているという点です。本田宗一郎氏は自分の足で現場を歩き、さまざまな人への助言を地道に行いながら発展させてきた。その助言とは「もっとよくできるよ」というものですよね。「これは素晴らしいけれど、もっとよくできるはずだ」というイノベーティブな姿勢が、Hondaの根底に流れていると感じます。そんな創造の自由があることは、これから世界一のソフトウェア企業をめざすHondaの最大の魅力ではないでしょうか。大切なのは、新しいアイデアをトライさせてくれる自由度があること、そして失敗を許してくれるかどうか。クリエイティブには、新しいアイデアに挑戦して失敗することが欠かせません。日本の若いエンジニアは、失敗してもいいということをもっと知るべきだと思います。
松本:
まさにイノベーションのスピードを上げる意味でも、いかに失敗を増やせるか。本田宗一郎もいい話ばかりが伝わりがちですが、実はたくさん失敗しています。99%の失敗に支えられた1%の成功を拾う、いわば「失敗したもの勝ち」が、Hondaのもともと持っている企業文化なんです。自由な風土に関して言えば、社是にもある「人間尊重」というフィロソフィーが重要な役割を果たしており、誰もが平等で、個人が自立して、お互いに信頼しあうという価値観を大事にしてきました。普通ならば「儲からないからやめてしまえ」と一蹴されてもおかしくないアイデアを、個人の意志を尊重し、マネジメント層が保護し、失敗しても温かく許容する。クルマやバイクだけでなく、パワープロダクツやロボティクス、ジェットと、ここまで幅広い事業領域を持つ企業は世界を見渡してもありません。これはひとえに、夢を原動力に挑戦し続ける価値観の賜物です。創業者自身が自分の失敗をたくさん見せてやってきたので、自然とそういう土壌が生まれたんでしょうね。
ファイゲンバウム氏:
松本さんが今おっしゃったことは、企業として実現するのは非常に難しいことです。非常にイノベーティブな創業者が素晴らしい企業をつくっても、培われた歴史が続かない例は世界に数多くあります。Hondaはそうではありません。先代の方々がつくりあげた伝統を、次の世代につなげることをとても意識的にやっています。これは簡単にできることではありません。
松本:
自動車産業自体が大きくなってそこで収益を上げる構造になると、やっぱりオペレーションに注力して、ともすると自由な風土が減ってくる傾向にあります。こうしたついついビジネスに流れやすい雰囲気はいつの時代だってあると思う。それに意図的に逆らっていかないといけないという意識は常にあります。研究所の中でも、エンジニアが自分でフリーテーマを設定し、そこに予算をつけてチャレンジさせる制度も残っています。ある意味で、匿うではないですが、目先の成果を追わず内緒で開発させるというのも大切だと思います。ASIMOやジェットも、そうしたところから生まれています。
冨山氏:
先日、「R&DセンターX」のワークショップで若い女性の研究員と話をする機会があり、彼女の話がとても印象深かった。ハードウェアからソフトウェアへ、独身主義からオープンイノベーションへ、Hondaはこれまでとは真逆の方向へと進もうとしています。だからこそ直面しているであろうカルチュラルギャップについて尋ねてみたのですが、そもそも「ピンと来ていない」、つまりギャップを感じていないと言うんですね。これには、いい意味で驚かされました。日本の大企業が変化を起こそうとする時には、壁やギャップを感じるのではないかと不安になるものです。しかしHondaでは、そもそも変化に対する寛容性が根付いている。これから迎え入れる多様な人材に、好きにやってもらうためのいい環境が整っているなと感じました。

これまでのHondaに、
いなかった人と会いたい。

冨山氏:
自動車産業の進化は、どちらかというとハードウェア主導のインプルーブドイノベーション型でした。その環境で長くやっていると、必然的に環境適応を起こして同質的で連続的な組織集団になってくるんですね。けれどHondaは今、新しい環境に遭遇している。技術的にはソフトウェアオリエンテーションでしょうし、それをオープンアーキテクチャでやっていくし、ビジネスモデルもかなり従来から飛んだものになっていくんだと思います。となると非連続的な進化をしなきゃいけない。Hondaにすでに内在する文化や人的資源だけではなく、より多様で異質な才能がHondaのドメインに飛び込んできて、新しい仕事をしていく必要がある。自分は自動車業界で働くなんて思いもよらなかった人たちが、Hondaにあふれている面白いネタを大いにオモチャにしながら、さまざまなことに挑めたら素晴らしいなと思います。
ファイゲンバウム氏:
ソフトウェアにはさまざまな階層があります。エンジニアリングはひとつの階層であり、クラウドサービスはまた別の階層であり、そして最後の階層を担うのが人工知能です。知能という、人間の行いそのものを機械によって再現するには長い時間がかかります。そこには、従来型の技術者だけではなく、今この時代のコンピュータサイエンティスト、コンピュータエンジニア、サイコロジストなど多様な人材が必要です。Hondaはそのことをよくわかっていますね。さらに付け加えたいのは、経営陣のビジョンは統合的で長期的な視野に立ったものだということです。そのビジョンとはエコシステムと呼ばれるもの。イノベーションが生まれる生態系がここにはある。このエコシステムが人工知能のソフトウェアと融合されることを期待しています。
松本:
Hondaには、「まず自分のために働け」という言葉があります。私自身、未知の世界に挑んでいくためにもっとも大切なのは、結局のところ個人のモチベーションに行き着くと思っています。みなさんに約束できるのは、Hondaには、モチベーションを刺激するチャレンジングでインパクトの大きなプロジェクトがあふれているということ。これまでのHondaのイメージにとらわれることなく、たくさんの若い個性に参加していただきたいですね。たとえまったく関係のない分野の出身でも、社会的課題の解決と、自らの夢を叶えることに燃える方であれば、ぜひ一緒に新しい世界をつくっていきたいと思います。
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