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EVENT REPORT

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「エキスパートシステムの父」
エドワード・ファイゲンバウム教授が語る、
AIの未来とHondaへの期待

ACMチューリング賞を始めとするさまざまな栄誉に輝き、AI領域における「エキスパートシステムの父」とも称される、スタンフォード大学のファイゲンバウム名誉教授。教授がアドバイザーを務める「R&DセンターX」にて、Hondaのエンジニアに向けた講演&座談会が行われました。ここではその一部分を、ダイジェストでお伝えします。

第一部: AI-Lecture

第一部は、ファイゲンバウム教授からのレクチャー。AI開発の歴史や今後の動向を、教授ご自身の経験はもちろん、さまざまな研究者の言葉やエピソードをちりばめながら語っていただきました。

「AIという2文字のうち、より重要なのはI、インテリジェンスです。私たちにとって非常に幸運なことに、この世界には80億もの人口、つまり80億ものインテリジェンスが存在しています。私たちがやるべきことは、その行動を研究することなんです。

インテリジェンスは2つに分けることができます。パーセプション(知覚)とコグニション(認知)です。ここに飲み物のボトルがあります。ボトルだと知覚することに思考は必要なく、1/10秒もあればできます。このボトルを、私が誰かにあげようとしている意図まで推論するのが認知です。認知には非常に時間がかかります。これは自動運転を考える上でも非常に重要となるでしょう。

例えば路上に歩行者がいる。その歩行者をただの物体として知覚するだけでなく、コンテキスト(背景、場面、前後関係)から何をしようとしているのかを推論する。これからのAI研究において、より有益かつ有用なものをつくりたいならコンテキストの理解を取り戻さなければならないと、スタンフォード大学のAIサイエンティスト、フェイフェイ・リー氏も言っています。

みなさんにひとつアドバイスです。実験的研究分野においては、イノベーションは、生み出すよりも発見するほうが簡単です。そして発見するためには、よく練られたビジョンが必要だということを覚えておいてください。

イノベーションの時間軸についても話をしましょう。アメリカでは戦後、空軍から著名なサイエンスグループに『20年後に必要な技術を予測してほしい』という依頼がありました。その分厚いレポートには、コンピュータという単語すら入っていませんでした。このことからも分かるように、20年後とはほとんどSFの世界で、誰にも予測できません。10年後も同じです。しかし5年後なら想像できます。基礎科学がすでに確立されている、されていなくてもその方向性が見えている。みなさんの創造力のほとんどは、次の5年間に集中させると良いと思います。そうしながらも、10年後でインパクトを起こす可能性のある発見にも目を向けるのが良いのです」

さらにエンジニアたちへのアドバイスとして、HondaのR&Dがこれから進むべき方向性を、Hondaの歴史にも触れながら具体的に指し示していただきました。

「本田技術研究所の松本社長がおっしゃっていたことに私も同意します。それは『革新的であれ』ということです。誰もがやっていることではなく、新しいこと、違うことをやってみろ、と。振り返ってください。例えばHondaの素晴らしい発明であるCVCCエンジンは、ほかの会社がやっていないことをやったからできたのです。

ただしソフトウェアは、ハードウェアであるエンジンに比べて少なくとも10倍は速いスピードで開発されています。Hondaはもっとスピードを上げるべきです。すべてを速くしなければなりません。明日アイデアが生まれたのなら、すぐに活動できるように社風を変えていくことが重要です。

さらに、そのためにもよりオープンであるべきです。AIにはわからないところがたくさんあり、オープンなディスカッションの領域が非常に広いのです。世界には、Hondaがやっていることに興味を持っている人がたくさんいます。ぜひコンタクトを取ってください。クルマの領域の人ではないかもしれませんが、みなさんの問題を解決できるかもしれません。

もうひとつ。挑戦する機会、トライを増やしましょう。失敗してもいいんです。何度も失敗を重ねることが、成功につながっていきます。また、コミュニケーションを増やしてください。社外の人でも、ラボの中の人々でもかまいません。よくないアイデアに対しては、素直にそう伝える関係性も大切です。

AIの研究は理論型ではなく、実験型で行ってください。あるシステムを思い描く時には、シミュレーションをし、実物をつくってください。そして毎朝のように現状を把握し、シミュレーションをアップデートしてください。理論だけにとらわれすぎては何も生まれません。まずはやってみること。その繰り返しによって、世界を驚かせる成果がこの場所で生まれることを期待しています」

第二部: Discussion

続いて、より少人数でファイゲンバウム教授を囲んでのディスカッションのセッションに移りました。世界的なAIの権威と言葉を交わすまたとない機会に、Hondaのエンジニア達からも積極的に質問が飛び交いました。いま進めている研究開発のAI技術についての各論や、エンジニアとしてのあるべき姿など、レクチャーからさらに深く突っ込んだ議論が行われました。

ここでは、ディスカッション後に集まった参加者からの声をご紹介します。

「普段、社外でのこういった著名な方の講演ですと、遠いところから聞くだけですけれども、エキスパートシステムの父と呼ばれるファイゲンバウム教授とここまで近い距離で直接お話を聞き、ディスカッションまでできる機会を持てたのは非常によかったです。AIに対する自分自身の考え方を、あらためて見つめ直すいい機会になりました。Hondaの元々持っている文化である、他の人がやっていないことをやる、という指針に対して、もっと強く取り組んでいきたいと思います」

「理論型でなく、実験型の開発を行うべきだというお話には、とても納得感がありました。開発において何を重要視すべきかを教授ご本人からレコメンドしていただけたので、その価値がより伝わってきました。また、もっと速くという言葉を肝に命じて、開発スピードを上げていきたいです。国際会議なんかに出ても、1年で議題自体が大きく変わっている印象があります。世界をリードできるように、とにかくトライ&エラーを増やし、チャレンジのスピードを上げていきたいと思います」

Hondaでは、今後もこうした機会を数多く設けていく予定です。社内だけでなく、社外の方に開いたセッションの場も用意していきますので、自動車業界に関わらず様々なバックグラウンドをお持ちの方に参加いただければと思います。開催情報は、随時セミナー情報よりご確認ください。

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