Honda Technology News

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CROSS TALK

地上最速へ
F1の表彰台を追う、
Hondaの闘い

2018年6月19日。あるニュースリリースが世間を騒がせた。
HondaがRed Bull Groupと新たな契約を締結。
2018年より提携しているScuderia Toro Rosso に加え、
同レッドブルグループ傘下であるRed Bull Racingにも
パワーユニットを供給することを発表したのだ。
地上最速へ。常勝チームとの契約締結は、Hondaになにをもたらしたのか。
F1の最前線を駆ける技術者が、パワーユニット開発の今を語る。

名田 悟
HRD/ホンダレーシングディベロップメントUK
※インタビュー内容は取材当時のものです。

1999年に新卒入社。本田技術研究所に配属され、1年目からモータースポーツのエンジン制御を担当することになった。2003年よりF1のプロジェクトに参加。イギリス駐在時にはレースチームでエンジンの実走を担当し、レースエンジニアとしてジェンソン・バトン氏を支えた。第1ブロックのマネジャーとしてPU開発の指揮を執ったのち、 ホンダレーシングディベロップメントUKへ駐在。

池ヶ谷 潔
HRD Sakura
※インタビュー内容は取材当時のものです。

大学時代は、イギリスの大学にてモータースポーツを専攻。2004年に帰国し、大手自動車メーカーでキャリアをスタートさせた。総合技術研究所で量産車の部品設計に携わり、2013年よりSUPER GTのプロジェクトに参加。モータースポーツの世界へと足を踏み入れた。その後、F1への想いが再燃し、2016年にHondaの一員となった。

圧倒的に勝つ。
それがHondaの使命。

名田:
おつかれさま。今日の開発は順調だったかな。
池ヶ谷:
テストは上手くいっています。ただ、大きな課題も発見したので、再来週のレースまでには解決策を捻り出さないと。明日、皆でアイデアを議論(ワイガヤ)する予定です。
名田:
次のレースも大事だけど、来シーズンのための技術革新も忘れないように。
池ヶ谷:
ええ。そちらも滞りなく進めています。課題は大きいですが。
名田:
苦労をかけて申し訳ない。そんななか今日の企画に参加してくれてありがとう。
池ヶ谷:
いえいえ。この記事をきっかけにHondaのエンジニアの想いが少しでも伝われば嬉しいですし、正直、仲間が増えてくれたらありがたいなと(笑)
名田:
確かに。Red Bull Racingとの契約締結は大きかったと思う。2チームとの連携は過去4シリーズでもなかったこと。これはHondaにとっても新たな挑戦ですし、単純計算でも2倍の人員が必要になってくる。
池ヶ谷:
Red Bull Racingは2004年にF1に参戦して、わずか数年後に4連覇の快挙を成し遂げていますよね。まさにトップチームのひとつですし、世界一の車体をつくる技術を持っています。そこに我々のパワーユニットを搭載することになる。1勝や2勝ではマシーンの性能のおかげだと言われてしまいますし、シーズンを通じて勝つこと、つまりチャンピオン(王冠)を勝ち取らなければHondaが世界を驚愕させたことにはならない。今、まさに私たちの真価が問われているのだと思います。
名田:
モータースポーツでは結果がすべて。勝つために出場している以上、勝てるパートナーを選ぶことになる。そういう意味では、トップチームが“勝てるパワーユニット”としてHondaの技術を認めたとも言えます。今後のレースが楽しみではあるものの、私たちが背負う責任は極めて大きい。
池ヶ谷:
地上最速。その夢を掴むためには、ただ人員を増やすだけでは足りない。外部の方の知見も積極的に吸収していく必要がありますし、思いを共有して技術課題に取り組む仲間が増えるのであれば心強いです。
名田:
その通りだと思う。ありとあらゆる角度から研究開発を進めなければ、世界一の座を掴み取ることはできません。
池ヶ谷:
正直、Hondaのパワーユニットはまだまだ世界一とは呼べません。こうした状況のなかで、猛者ぞろいのライバルたちをどうやって出し抜いていくのか。本気で考えています。
名田:
開発グループが掲げているミッションは、“世界一のパワーユニットを永続的に創出する集団”になること。1勝ではなく、常勝。圧倒的に勝ってこそ、初めてHondaの力を世界に示したことになる。

予想を超える
F1レーシングの世界。

名田:
外部の人材と言えば、池ヶ谷君も転職者。
池ヶ谷:
ええ。入社当初は驚きばかりでした。
名田:
確か以前はSUPER GTのエンジン開発に携わっていたと聞いています。
池ヶ谷:
同じモータースポーツの世界で技術競争に励んでいましたが、F1の世界は特に技術革新と投入サイクルのスピードの面で予想を超えたものでした。
名田:
池ヶ谷君の入社は確か2年前くらいだったかな。当時は最先端燃焼技術の初導入に挑戦していたところでしたね。
池ヶ谷:
ええ。この領域の研究意義は理解していたものの、まさかここまで難易度が高くチャレンジングな開発領域だとは思ってもいませんでした。さらに若手のエンジニアが研究開発においてリーダーシップを発揮していたこと、誰もが自ら手をあげ、アイデアをパワーユニットに搭載していたことにも目を丸くしました。当時の私は35歳。モータースポーツの経験もありましたし、正直、F1の世界でもやっていける自信のようなものはあったんです。しかし、この“2つの予想外”にぶつかって、わずか2週間ほどで「自分がやってきたことをリセットしなければ」と腹を括ることになりました(笑)
名田:
そんな池ヶ谷君も、今ではHondaの一翼を担うエンジニアに成長している。誇らしいですね。
池ヶ谷:
Hondaでの成長スピード、特にF1は他社に比べて格段に速いと思うんです。F1の世界では、高速でトライ&エラーを繰り返すことになる。2018年シリーズで言えば全21回ものレースがあり、グランプリの開催は月2回以上。1日でも立ちどまっていると物事についていけなくなるほどです。これだけの速度でPDCAを回していると自分の予測が裏切られることも多くなりますし、その裏切りから「そっちか」という大きな発見をすることもあります。こうした背景も、若手の成長を力強く支えているのではないでしょうか。
名田:
「なぜなに」を繰り返し問い続けることも我々の特長のひとつですね。
池ヶ谷:
そうですね。Hondaは本質的なメカニズムを探究し続けているなと思いました。「このデバイスをつければパワーがあがる」とまことしやかに伝えられる事も多い。情報からただそれをパワーユニットに搭載するような事はもちろんしない。なぜパワーがあがるのか?情報で判断し鵜呑みにするのではなく、本質的に理解しようとします。そのため、例えばレギュレーションが変更されたとしても、ルールに則したうえで技術を応用し、競争力のあるパワーユニットを供給することができるはず。応用力と一言で言えば簡単ですが、この差はF1の世界でもそうでなくてもとてつもなく大きな財産だと思います。

日本の夢を、
世界の表彰台へ。

名田:
F1で勝つ。その夢は、Hondaだけの夢ではないと言えると思うんです。日本人のファンにとっても、日本人のエンジニアにとっても、日本の技術力を世界に示すことには大きな意味があるのではないでしょうか。
池ヶ谷:
私もそう思うところはあります。もちろんHondaの一員として王冠を手にしたいという想いはありますが、日本のパワーユニットが勝つことにはそれ以上の価値があると思うんです。いつかHondaの責任を果たす。今は、この夢を実現させることが私の使命だと考えています。
名田:
F1チームのメンバーに求めているのは、その「世界一になる」という夢を共有できること。エンジン設計領域、テスト領域での経験さえあれば、たとえモータースポーツの経験がなくてもかまいません。
池ヶ谷:
私もそう思います。F1は一戦一戦、必ず結果が出ますし、全世界のファンが注目するなかでライバルに完敗することもあります。そんなレースの厳しさ、生みの苦しみを乗り越えるためには強烈な目的意識が必要だと思うんです。
名田:
池ヶ谷君も苦労を重ねたようですね。
池ヶ谷:
2017年のメキシコグランプリは、今でも忘れられません。あまりに過酷な状況下だったため、テスト段階からパワーユニットの部品が壊れてしまうなどのアクシデントが発生していました。
名田:
パフォーマンスを維持しながら、部品の耐久性も維持する。その針の穴ほどしかないポイントを探り続けた池ヶ谷君の成果でしたね。
池ヶ谷:
いえいえ。あれはチームの成果でした。他の設計者も「ここに解があるかもしれない」と後押ししてくれましたし、テスト領域のプロもあきらめずに何度もチャレンジしてくれたんです。
名田:
あのときは10位入賞。貴重な1ポイントを獲得した。そんな経験をHonda一人一人のエンジニアが持っている。それが今の開発の原動力になっていますし、今後の競争力につながると思う。
池ヶ谷:
パワーユニット=競争力。もちろん生みの苦しみはありますが、その分、世界一を決めるレースに参加しているという確かな手応えを感じることができますね。
名田:
池ヶ谷君はF1の喜びも厳しさも味わってきたと思うのですが、振り返ってみてHondaに転職したことは正解でしたか。
池ヶ谷:
ええ。自分でも正解だったと思います(笑) マネジメントの道に進むか、エンジニアリングを極めるか。当時は今後のキャリアに迷っていた時期だったのですが、そのときにたまたまHondaの求人が出たことは幸運でした。中学生のころに夢見たF1に挑戦できる。それだけで血が沸きましたね。来シーズンはもちろん優勝を狙っていきますし、自分でも最高にチャレンジングなタイミングに入社したなと思っています。
名田:
熱いですね(笑)
池ヶ谷:
いえいえ。まだまだこんなものじゃありませんよ(笑) 日本の夢を、世界の表彰台へ。そのためには、全員が自分のすべてを出し切らないといけませんから。
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