鈴鹿製作所森田 瑞生
聴覚障がいというハンデを持つ森田さんは今、「高みを目指し、ロールモデルになりたい」と意欲的に働いています。ですが、入社当初から前向きだった訳ではありません。そんな森田さんを変化させたHondaの魅力を紐解きます――。
両耳に補聴器をつけなければ、耳が聞こえないという聴覚障がいを持つ森田さん。聾学校時代はビジネス全般を学び、大学では教育学部を専攻したそうです。
大学を卒業して就職を考えていた時は、コロナ禍の真っ只中。教員の夢が叶わず、どの企業の採用活動も厳しく、まさしくオールジャンルで就職先を探しているような状況でした。
当初から自動車業界を考えていたわけではないですが、就活サイトに目を通す中で『Honda』のリクルートサイトへとたどり着きます。
WEBサイトを見ていて最も惹かれたのは、「人間尊重」という基本理念に基づいた自立・平等・信頼という3つのキーワード。特に「平等」という部分では、個人の属性に関わりなく等しく機会が与えられるというものがあり、私の背中を押してくれました。
またHondaには、もう一つの基本理念「3つの喜び」があり、買う喜び、売る喜び、創る喜びを掲げ、モノを生み出す事に誇りを持っています。素敵な会社だなと思いました。
とはいえ、仕事に挑むにあたっては不安もあったようで……。
「果たして、仕事についていけるのだろうか?」と体力面も含めた不安はありました。また集団内のコミュニケーションに関しても耳のハンデがあり、大丈夫だろうかという気持ちは大きかったです。
そんな不安を抱えながらも、「Hondaという大きな会社で働くことへの憧れや魅力は大きかった」と就職。鈴鹿製作所への配属となり、岐阜で暮らしていた森田さんは転居、一人暮らしをスタートさせます。入社後、スムーズに働けたのでしょうか?
入社してまず、学生時代と意識が変わったのが「時間の使い方」です。何となく仕事に入るのではなく、時間は限られているという意識の元、「どのように行動するのが最適か?」を考える。これまでの“甘さ”を痛感する部分でしたし、意識は高まったという気持ちはあります。
一方、周囲とのコミュニケーションに関してはなかなか意識を変えられず、当初は苦労しました。耳のこともあり、相手とコミュニケーションを交わすことに遠慮してしまう。そうすると自然と「仕事を抱え込んでいる」自分がいるんです。
正直に言えば、Hondaでのキャリアは“良いスタート”ではなかったかもしれません。
このように語る森田さんは、間もなく入社4年を迎えます。良いスタートではなかった森田さんが課題を乗り越え、定着を果たした要因はどこにあったのでしょうか?
森田さんに「どのようにして、課題を乗り越えたんですか?」と聞くと、こんな答えが返ってきました。
シンプルな結論ではあるのですが、臆することなく周囲とコミュニケーションを取る。このことに尽きます。
きっかけをくださったのは、当時のトレーナーやチームリーダーです。ちょっとした事でも声掛けをしてもらい、それにリアクションする事でラリーが増えていきました。それこそ「挨拶をする」というのもコミュニケーションの一つ。聴覚障がいを持つ身として最初は緊張も大きかったですが、言葉に発さないまでも相槌を打つとか、少しずつ“表現”をすることができるようになりました。
教育担当や上司に背中を押してもらい、少しずつ職場に馴染んでいった森田さん。入社以降、エンジン部品の組立作業を担当しているとのことですが、業務自体はスムーズにできていたのでしょうか?
入社して気づいた特性でもあるのですが、私にとってコツコツ作業を覚えることは苦痛ではなく、凄く面白さを感じるものだったんです。もちろんイレギュラーな対応もありますし、一筋縄ではいかない部分もあるのですが、スキルを磨けることは喜びでもありました。
ボルトやナットの“緩み”ひとつで質が下がり、場合によっては重大なミスや事故にもつながりかねませんから、常に集中し、自分のペースを崩さないで行う事は意識しています。
職場でのコミュニケーションという課題を乗り越え、仕事への適性に気づき、Hondaでの業務に定着していった森田さん。仕事を重ねる中で、一段高い意識が芽生えていったと言います。
次第に自分が作業を行うだけではなく、「この作業を後輩に教えるとしたら、どうすれば伝わりやすいだろうか?」という事も考えるようになりました。一般職からトレーナーへと立ち位置が進んだこともありましたが、より責任感と“チームへの貢献”という気持ちが芽生えた気がします。
また優先順位を立てた作業コントロールにやりがいを見出せるようになり、「どうすればもっと作業の質を高められるか?」という視点も持てるように。業務改善にも少しずつ取り組んでいるところです。
そして森田さんにとって、トレーナーという立ち位置には別の感慨もあったようで……。
かつての夢であった教員になることは断念しましたが、「誰かに何かを教える」仕事に就けていることは、私にとって大きな感慨でした。違った形ではありますが、一つの夢が叶ったわけですから。ここで働き、この仕事をしていて良かったと感じる要素の一つです。
ここまでお話を伺うと、入社当初の苦戦はあれど、健常者と何も変わらずにコミュニケーションを図り、業務を行っている森田さんが見えてきます。ただ森田さんのコミュニティは配属部署だけには留まらないようです。
これだけ大きな会社ですから、私の他にも障がいを抱えながら働く同僚がいます。休憩時間になると、同じように聴覚障がいを持つ同僚と休憩スペースに集まり、手話を用いて会話を重ねるといった場面も。部署を超えて交流を見出せるのは、とても心強いですし、シンプルに楽しさも感じられています。もちろん健常者との交流もありますし、それこそHondaに入って趣味が増えたんです。
「どんな趣味ができたのですか?」と伺うと、驚く答えが返ってきました。
新しい趣味はいくつかあるのですが、一つは「バイク」です。同僚に影響されて二輪免許を取り、自分のバイクを購入。休みの日には仲間と連れ立ってツーリングに行くこともあります。購入したのは、Honda・CB400。エンジンの鼓動を身体に感じることが、こんなにも喜びになるんだというのは発見でしたね。
また、これは周囲にも驚かれるんですが、音楽にも興味を持つようになったんです。「聴覚障がいがあるのに?」と思われるでしょうが、歌ったり、踊ったりしているアーティストの表情から感じるものもありますし、ライブ会場に行った時の“高揚感”は一度体験してからやみつきです。
お話を伺うと、森田さんの持つバイタリティには驚かされます。入社当初の遠慮はもうなく、積極的に周囲と交流を図ってもいるようです。
部署単位でも、有志でも、たびたび飲み会があって私も時々参加しています。障がいがあるから、と二の足を踏むことはないですね。
それこそ年月を重ねるほどに、同僚とは何でも言い合える関係性となっていきました。私がミスをすれば厳しい指摘をもらう場面もありますし、こちらも意見はしっかりと言う。過度に気を遣われないことは「居心地の良さ」につながっていますし、私の“耳のハンデ”を皆さんが理解したうえでフラットに見てくれる――。同僚には感謝の気持ちでいっぱいです。
「入社した頃とガラッとマインドが変わったんですね」と言葉を向けると、森田さんはこんな話をしてくれました。
今は毎日、職場へ通うことがとにかく楽しいです。「何をしようか?」、「どんな声掛けをしようか?」など、ポジティブにやるべき事が浮かびますし、以前の“まず不安が頭に浮かぶ”ことはなくなりました。そして、Hondaという会社自体への愛着も増した気がします。
前を向いてHondaでのキャリアを歩む森田さんに、今後の目標について伺いました。
ここでは定期的にキャリア相談があって、将来の希望や夢を会社と共有できる場があるんです。入社当初は「この会社でどんな未来を描くか?」といった思いに至ることもなく、聴覚障がいということで“自分で限界を引いていた”ところがありました。
ただ、今は違います。今よりも責任ある立場、役職者を目指せたらと思いますし、エンジン部品の組立以外の部署でも働きたいという思いがあります。なんなら鈴鹿を離れ、違う拠点で働くことだって良いのでは、という気持ちがあります。
せっかくここまで育ててもらえ、新しいことに挑戦ができていて、ここで満足するのはもったいないと思うんです。
また森田さんには、自分自身がロールモデルになって「ハンデがあっても何も変わらずチャレンジしている姿を見せたい」という気持ちがあります。
入社してから3級自動車整備士の資格を取ったんです。これは誰かに勧められたわけではなく、業務に取り組むうえで「プラスになるのでは?」と思えたからこその行動。今後は2級整備士にもトライしたいと考えています。
耳のハンデを、何かを諦める言い訳にしたくないですから。
そんな森田さんに最後、Hondaの魅力について伺いました。
どんなハンデがあったとしても、フラットに“一人の人間として”見てくれて、かつ相手への理解と気遣いにあふれている。そんな会社です。またどんな方でも“所属できる”コミュニティがあります。新たな一歩を踏み出したい方、自分の居場所を見つけたい方にとって、これ以上ない会社となるのではないでしょうか?
これから入社される方が、どんな障がいを持っていたとしても、「何ができるか?」を見極めながらフラットに触れ合いたいですし、共に切磋琢磨できればと思います。
真っすぐに前を向き、Hondaという会社で未来に向かって走り続ける森田さん。間違いなく、Hondaで働く障がい者にとって一つのロールモデルとなっていますし、今後、就業を考える方の背中を押してくれる存在と言えるでしょう。
入社時に「多くの工程を習得して工程トレーナーになる!」という夢をかかげ様々な事にチャレンジし今ではNシリーズのエンジン組立ラインのトレーナーとしてメンバーを引っ張る存在となっています。今後はHondaのパワーユニット領域を支えるエキスパート人材となりお客様へ様々な価値提供をしてほしいと思っています。