二輪・パワープロダクツ事業本部滝沢 悠太
二輪・パワープロダクツ事業本部で現在、システム開発や運用に携わる滝沢さん。彼は18歳の時に事故で下半身不随となり、今も車椅子で生活しています。そんな滝沢さんが紆余曲折を経て、Hondaの正規社員として働くに至った流れをご紹介します――。
現在、二輪・パワープロダクツ事業本部に所属し、二輪や四輪、汎用品の開発に用いるシステムの開発や運用を行う滝沢さん。ここに至るまでの道のりは、決して平坦ではなかったと言います。
父の影響もあってか、もともとHondaの車やバイクへの憧れが強かったので二輪免許を取ったのですが、事故によってバイクの運転ができない身体に――。
その後、障がい者職業訓練校に進学し、そこでパソコン操作を学んだり、簿記の資格を取得しました。実は当時、周囲からは大学進学を進められていたのですが、「手に職をつけ、すぐにでも自立できたら」という思いがあっての選択。そして訓練校から斡旋を受ける形で、とあるIT企業へと就職。経理として働くことになりました。
IT企業の経理として、5年近くのキャリアを積んだ滝沢さん。Hondaへの転職を決意したのは「昔からの憧れ」が大きかったと言います。
WEBサイトを見ていて最も惹かれたのは、「人間尊重」という基本理念に基づいた自立・平等・信頼という3つのキーワード。特に「平等」という部分では、個人の属性に関わりなく等しく機会が与えられるというものがあり、私の背中を押してくれました。
またHondaには、もう一つの基本理念「3つの喜び」があり、買う喜び、売る喜び、創る喜びを掲げ、モノを生み出す事に誇りを持っています。素敵な会社だなと思いました。
IT企業の経理として、5年近くのキャリアを積んだ滝沢さん。Hondaへの転職を決意したのは「昔からの憧れ」が大きかったと言います。
他の会社に就職しても、事故の前から抱いていた“Hondaへの憧れ”が消えることはなかったんです。バイクに乗ることこそできませんが、カーレースを観るのも好きでしたし、振り返れば実家はずっとHonda車でしたし。そんな時、Hondaの障がい者採用ページを見つけて「これはチャンスだ」と思ったんです。またライフステージの節目に立とうとしていた頃で、埼玉の二輪・パワープロダクツ事業本部で働けると生活基盤が築きやすい、という事情もありました。
とはいえ、滝沢さんが前職で担っていた業務は経理。IT企業に在籍こそしていましたが、システム開発・運用を行うITスキルはほぼゼロだったそうです。
スキルではなく、「Hondaで働きたい!」という強い思いを汲んで頂いた将来の可能性を期待しての採用だったと思います。そのため入社後は、それこそ必死で勉強しましたね。ただ、Hondaの研修プログラムが充実していて、プログラミング言語の習得から実践的な技術研修まで、内容の濃いものを受けられたことには助けられました。もちろん独学での勉強も並行し、学びを継続する中でITの面白味も発見できたと感じています。
そしてシステム開発・運用担当になることで、視野が広がった部分もあるようで……。
Hondaで働く花形と言えば、駆動機の開発や製作にあたるエンジニア。私自身も転職時は「福祉車両の製造に携わりたい」という希望があったんです。だた業務を重ねる中で「開発データや社員情報を管理するシステムがなければ、開発だって円滑に進まない」ということを知れて、システム開発・運用業務へのプライドが増していった気がします。
IT企業の経理時代と同様に“障がい者採用”として入社した滝沢さん。ただ、社内での立ち位置は前職とは全く違ったと言います。
良い意味で“特別扱いされない”部分がありましたね。一人の社員としてフラットに見てくれ、様々な指導をして頂けました。Hondaの基本理念に「人間尊重」というキーワードがあるのですが、まさに言葉の通りだなと感じました。
とはいえ、必要な配慮が行き届く点もHondaの特徴。滝沢さんの入社後、勤務フロアに多目的トイレが新設されたり、自動車通勤時の駐車スペースも使いやすい場所に設けてもらったそうです。
フラットでありながら、必要な区別と配慮をしてくれる。転職時、総務の方々がいろいろ気を配ってくださり、スピード感をもって事が運ぶ様子には、有難さはもとより感動すら覚えました。
また、様々な属性の人が働きやすい環境づくりを行う以外にも、時代の変化に対応した制度変更も柔軟である印象を受けます。コロナ禍の際、いち早く在宅勤務を取り入れてくれましたし、男性の育休取得も世の潮流よりも早かったです。「障がい者だろうが、健常者だろうが関係なく、フェアに好待遇を受けられる」という点は、Hondaの大きな魅力ではないかと思います。
一方、フラットな組織であるが故、時には厳しい指摘をもらったこともあると語る滝沢さん。一つ、印象的なエピソードを教えてくださいました。
間接部門と呼ばれる“会社運営まわりの”システム開発や運用となるため、システムを利用する“お客様”は社員になります。直接お声がけ頂き、「便利になったよ」と言われることがありますし、事業部側から「こんなシステムを作って欲しい」という要望を頂く場面も少なくないんです。企画設計を行い、事業部の方々に確認を取るのですが、以前「モノを作る人の気持ちを考えないで設計したでしょ!?」と厳しく言われたことがあって――。
無意識のうちに“IT目線”になっていたんでしょうね。ハッとさせられた瞬間でしたし、その一方で障がい者だからとタブー視されず、同じ土俵で接してくれているという実感を得られたんです。仕事への意識が高まる、大きなきっかけでした。
そして他部署との関わりを通じて、見えてきた世界があると滝沢さんは言います。
多くの“技術者”と触れ合う中で、彼らがいかにHondaの技術にプライドを持っているかを実感しましたし、失敗を恐れずチャレンジする姿勢、改善に取り組むモチベーションの高さには驚かされました。これこそ“Hondaの技術”の源泉なのだなと感じます。
そんな滝沢さんですが、2013年の入社当初は嘱託社員としての勤務でした。それが2019年、大きな転機を迎えることとなります。
これまで働いてきた実績を認めて頂き、評価面談を経て、正規社員に登用されたんです。
思えば入社当初、「良い製品はきれいな職場から生まれる」という想いから敢えて汚れの目立つ白い色をした“Hondaの作業服”に袖を通した際にも感じたHondaの社員として働く自覚を、より一層強く感じることになりました。もっとHondaの発展に貢献したい、という気持ちを新たにできた瞬間だったと思います。
なお、今は私が正規登用された当時よりも人事制度の整備が進み、よりスピード感のあるステップアップを障がい者採用であっても狙えるようになっています。
Hondaの発展を目指す滝沢さんには現在、業務と並行して取り組んでいることがあります。
今の立場にいることで“会社の情報やデータ=貴重な資産”を扱っていますが、この資産を分析し、ビジネスに転化する施策を生み出すデータサイエンティストやコンサルタントを目指せたらと考えています。
今、応用技術者処理試験をはじめ、関連資格の取得を目指したり、IT全般の知識をより深めようとしている真っ只中。これらの挑戦を会社に止められることは一切ないですから、学びによって更なる高みを目指せたらと考えています。
一方、入社当初からの夢も消えてはいないようで……。
すぐにではなくても、いつか福祉車両の開発に携わりたいという野望は持っています。Hondaの場合、他部署への異動希望も出せ、スキル次第では様々な道が拓けていきますから、良い意味で“欲張って”いけたら良いのではと思います。
これだけ熱く夢を語れる滝沢さん。「どうして、そんなに前向きなんですか?」と水を向けると、印象的な答えが返ってきました。
Hondaで働いていると、自分だけが際立って前向きとは一切感じないですね。
語弊を恐れずに言えば、変わっている人が多い会社なんです。皆さん芯が強いというか、ブレない何かを持っている。そして「みんな違っていい」ということを実感できるフラットで懐の広い組織であるからこそ、自分自身も「今のまま突き進もう」という前向きさが生まれているのではないかと感じます。
本当に尖っている人が多いですから……。私なんて至って普通ですよ。
ちなみに、この滝沢さんの答えに対して人事の方から「滝沢さんも十分、尖ってますよ!」と笑顔で指摘が入ったことも言い添えておきます。
そんな滝沢さんの「Hondaの社員として過ごす毎日」についても伺いました。
コロナ禍の経験を経てリモートワーク取得の制度が整備されたのですが、基本的に“対面によるコミュニケーション”を重視するのがHonda流。とはいえ私の場合、身体のこともあって様々な拠点をスピーディーに動き回ることが難しい部分もあります。その際にはITツールをフル活用させて頂き、他部署とのコミュニケーションを取らせてもらっています。
スタンスは明確ですが、それだけにこだわらないのもHonda流かもしれないです。
障がい者、健常者という垣根を超えた交流も当たり前のようで、滝沢さんも積極性を発揮して多くの社員と交流を持っているようです。
仕事が終わって、同僚とお酒を飲みに行くことはたびたびありますね。そんな時、何気なく「車椅子でも行きやすいお店を……」と配慮してくれる方ばかり。それを自然に行ってくれるので、本当にありがたいです。
また部署を超えたツーリングイベントもあって、私も車で参加することがあります。
一人の転職者という視点では、こんなHondaの魅力も語ってくれました。
私自身の話でいうと、給与は前職時代よりも良くなりましたし、結婚や育児など、ライフステージが変わる中で“会社の手厚さ”を実感する場面は増えた気がします。
一つ面白い制度として、年間いくらまで“健康増進や豊かな生活のために使ったお金を会社が援助してくれる”Wel-Fitという福利厚生があって、「運動するためのスポーツ用品を購入した」、「提携施設に家族と泊まってリフレッシュした」、「興味のあった資格を取った」、「サーキットライセンスを取得した」など、幅広いジャンルの自己投資に対して費用援助を受けられます。
有休取得に関しても自由度が高く、周囲の理解も得られますから、オンもオフも充実させる社員が体感ですが他社より多いのではないでしょうか。それこそ「社食も美味しい」とか、毎日過ごす場所として、質が高いですよね。
このように語る滝沢さんに改めて、Hondaで働く魅力を伺いました。
私自身、Hondaという会社が大好きですから、まさに“天職”に就けていると感じます。皆が技術に誇りを持ち、多様な働き方を認め、フラットな視野をもって自然と助け合う。そんな会社です。
障がいの有無に関わらず、みんなと“同じ土俵で”活躍を目指せる会社ですから、一歩踏み出してチャレンジしたい方には最適だと思います。
いつも元気と笑顔で周囲との調和を心がけ、日々の職務に取り組んでくれています。ユーザーからの信頼もあり、いろいろ頼られることも多いですが、何事にも真摯に対応することが滝沢さんのスタイルだと感じています。自分の価値観を大事に今後も仕事の幅を広げて活躍してくれることを期待しています。